ケアマネジャーの中田です。
今回は50才代の女性で、3年前にくも膜下出血を発症されたご利用者をご紹介させていただきます。
後遺症として左下肢(大腿部から下)麻痺がありますが、リハビリや住環境の改善によって少しずつ日常生活動作が回復されています。
ご夫婦二人暮らしで、昔ながらの段差の多い日本家屋にお住まいです。寝室からトイレまでの距離が5m程あり、廊下に段差や勾配もあります。
トイレに入って段差を2段昇ったところに便器があります。居室内の移動は歩行器で行えていますが、トイレに行って排泄を行うことは転倒の危険性も高く、ご本人にも恐怖感が強くありました。
ご本人に「生活の意向」を確認させていただくと、「本当はポータブルではなくトイレに行って排泄したい」「夫にポータブルの片づけをしてもらいたくない」と話されました。
そこで私はご本人とご家族、福祉用具専門相談員や訪問リハビリの理学療法士とともにケアプランの目標を「転倒せずにトイレまで行って排泄ができる」と設定して、その目標に向けたケアチームの援助がスタートしました。
実践したことは4つです。
①訪問リハビリで杖を使い、寝室からトイレまでの移動・トイレ内の段差昇降を練習する。
②住宅改修で必要な個所に手すりの設置を行う(過去に住宅改修を行っていたため残額がなく、トイレ自体の改修は難しい状況でした)
③排泄前をイメージし、自分で足に装具をつける練習をする
④足に装具をつけた状態で、トイレ内にてスリッパを脱ぎ履きする練習の実施
この4つの取り組みをしましたが、一番の難関が④の「スリッパの脱ぎ履き」でした。昔ながらのトイレで床はタイル張りのため、ご本人は「トイレの床を靴下で歩くのは不潔に感じる」という気持ちがありました。
トイレ内の敷き物も考えましたが、足が引っかかりやすいこと、滑りやすくなってしまうこと、洗濯をしなければならないこと等の理由で、敷物は使わないことにしました。
徐々にリハビリの効果がでてきましたが、トイレ内でのスリッパの脱ぎ履きだけが最後まで課題に残りました。
ある時、「室内のフローリングなどに引くペット用の滑り止めマットを敷くのはどうだろうか」という私の提案にご本人が興味を持たれ、早速購入にいたりました。
マットはぴったり床に密着して、滑りや躓きの心配もなく、しかも消臭機能付きなので、ご本人は大変気に入ってくださりました。
その結果、スリッパを履くのをやめて安全にトイレ内を移動することとなりました。
今ではポータブルトイレは全く使わず、一人でトイレに行っておられます!
目標の達成までに時間はかかりましたが、ご本人の一番望んでいたことが実現できました。
ご本人のリハビリの努力やあきらめない気持ち、ケアチームの連携・協力のおかげです。
これからも、たくさんのご利用者の「望む生活の実現」に向けて支援をしていきたいと思います。
最後に、現在のご本人の様子についてご紹介します。
最近飼い始めたインコのピロちゃんが、ご本人のリハビリ中に「ピロちゃん」と自分の名前を言うようになりました。
ご本人は「ピロちゃん今からトイレに行ってくるね。」と、とても素敵な笑顔で語りかけています。
次のステップとして、洗濯や夕食作りなどの家事にも工夫しながら挑戦されています。
ケアマネジャー 中田